31年前の機器を修理した

焼灼(しようしやく)器という医用機器がある。外科手術につかうもので、焼き切る道具だ。ナイフ(メス)で切開すると必ず血が出てきて邪魔なのだ。焼き切ると止血も同時に行えるから楽なわけだ。ヒトの外科手術では高周波(radio frequency)で焼き切っていたが、いまでもそうなんだろうか。動物実験では犠牲になってもらうことが多いから、傷口の処理は実験しやすい方法になる。もちろん、麻酔下で行うわけだ。大型実験動物(イヌ、ブタ)の場合は人間相手に使うのと同じ機器(いわゆる電気メス)を使うが、中小動物(ネコ、ウサギ、ラット)を実験動物に使うときはヒト相手の機器よりちゃっちい白金線のヒーターを使う。こっちの方が単純で取り扱いが簡単である。

先端がU字にした白金線に3A位の電流を流すと赤く発熱するからこれを使う。低電圧大電流の機器を使うわけだ。電気メスとは異なり先端の白金線は、細いのが当然で、よく切れる。そして当然のことながら高価である。

これを止めて、ニクロム線にする。耐久性は落ちるが安上がりである。銅の細いパイプにニクロム線をカシメて固定し、銅パイプをコネクタの雄のピンにはんだ付けする。加熱されてハンダが溶けるおそれがあるがそれほど加熱しないから大丈夫である。

この白金線に市販の電流を流すコントローラを使っていたのだが、問題は、スイッチを入れても音はしないわけで、電流が流れているかどうか手術中にわからない。しばしば手術者自身を焼いちゃうわけだ。スイッチはフットスイッチを使うのだが、使いづらい。ニクロム線を取り付けたナイフ(棒)にスイッチがあればコントロールしやすい。というわけで大幅な改造をしたのが31年前。

昨日、その機器の調子が悪いから修理してくれと言われて、機器の箱をあけて中身を見たのだが、

当然のことながら、全く覚えていない。右上の棒の先端の赤丸部分がニクロム線でこれで焼き切る。
回路図があるはず。と探したら、ちゃんとあった。

Macintoshで作成してあるが、そのファイルはどっかに行っちゃってない。やはり紙ベースで保存しておくのは意義があるのだ。

動作不良の1つは、電流が流れているという動作モード(メロディICを使っているから音楽が鳴る)のだが先端のニクロム線が熱くなったりならなかったりである。これはすぐ解決した。コネクタ部分での断線だ。よくある例だ。

もう一つは、オフになっているはずなのに、電流が断続して流れるというトラブルだ。
自分の作成した回路図を見て、全く覚えていないのでしょうがなく動作原理というかスイッチング動作がどうなっているかを調べて、オシロスコープで本来あるべき波形を確認にして、回路を追ってみた。1ケのトランジスタがどうやら動作不良。ON-OFFの入力が正しいのに出力がランダムにON-OFFになる。負荷(ソリッドステート・リレー、SSR)がおかしい可能性もあるので、負荷を切り離して固定抵抗で置き換えて調べたら、負荷のせいではないことが判明。というわけで、トランジスタ1ケを交換して修理終了。上機器の写真の箱の中の赤丸と回路図の赤丸が該当のトランジスタである。

2時間で終了したからな。自分で作製したものとはいえ、我ながらすごいと思ったよ。