浸透圧の実習なんて中学や高校でやったに違いないのだが、学生は全く理解していない。大学生が定量的な測定を行う実習として適当な課題のように思うが、実は、きちんと定量的に実施するためにはそれなりの装置等が必要だ。時間もかかる。というわけで2年前に安易な装置を作ったわけだ。予算もないから自作だな。作った当初は改良すべき点を挙げていたが、例によって、管理者はズボラなのでそのままだ。問題ないからな。耐久性に欠けるが、今年は3回目で、結果として壊れなかった。
卵殻膜を一端に取り付けたガラス管内に水、0.5 M、1.0 M 蔗糖液を入れて、水を張った容器(ステンレスのパッド)内に入れ、液面の高さの変化量を5分毎に測定させてグラフを作らせるわけだ。正確ではないが、ま、それなりに定量的なデータを取り扱うわけで、中学や高校では「水が移動したでしょ」で終わったと思うので、すこしは大学らしいかもね。モル濃度の概念を理解してもらうために、0.5 M、1.0 M 蔗糖液を作らせたいのだが悲惨なことになりそうだし、時間もないからこっちで準備する。大名実習というわけだ(こういうことをやるから、小保方のようなモル計算のできない学生ができちゃうのだ)。濃度が異なっても色は透明なので、学生は区別できなくなり、混乱しちゃう。だから食用の赤と緑の色素で色を付けることにしている。色素が混ざるので当然モル濃度は蔗糖の重さを測定して作った正確な濃度の液とは少し異るわけだが、そんなことにクレームを付ける学生がいたら、レポートは何が書いてあっても満点にしちゃうよ。
期待とか理解とかできるようになってほしいなというのは;
(1)1つのグラフに3本も線があると学生は理解できない。自分で複数の線のあるグラフを作成したら、1つのグラフに複数の線があっても理解できるようになるだろう。
(2)エクセルでは散布図からグラフを作らせることになるができるだろうか?一定時間毎の測定だから散布図でなくてもできるけどね。
(3)液面の変化速度が濃度によって異った訳だがなぜか説明できるだろうか?
(4)何故、水が移動したかは理解しているだろう。しかしいつまでも続くのだろうか?実習は30分まで、もしくはオーバーフローするまでだ。
(4)を設問として、「ガラス管の長さに制限がなく、時間にも制限がないとどうなるか?」と問うたら、昨日の実習で本日朝までに届いたレポート21通では;
ステンレスのパッドの水がなくなるまで水が移動する:6通
濃度が等しくなるまで水が移動する:8通
何言っているか理解し難い答え:4通
液面が高くなりその水圧と浸透圧が等しくなった時点で液面の変化が止まる:3通
んが!!!
実習の前に、浸透圧となぜ「圧」が付くのかを、半透膜を水が移動しようとする力と水面が高くなって水面が下がろうとする力=圧が同じになってバランスがとれるまで水面が高くなる、だから半透膜を横切る水の力を圧;浸透圧というのだと説明したんだけどね。理解している学生は2割にも満たないのかよ。
この程度なんだから、こんな高校のに毛が生えた程度の実習でいいんだろな。
(3)の速度の違いの説明は、課題として問うてはないけど(教科書に書いてないし、説明できないだろうから)、考察になんらかの言及があったら満点だな。
オームの法則だよね、圧=流れ(流量)x抵抗 だ。抵抗は半透膜で、面積が大きければ小さくなる。今回の場合は膜の面積は一定ではないけど、だいたい同じとすれば圧(浸透圧と静水圧の差)が高い方、モル濃度の高い方が流れ(流量)が大きくなるわけだ。時間がたつと浸透圧=静水圧だから圧がゼロ、流量がゼロだ。液面の高さが変わらないというわけだ。
マクロでは流量ゼロに見えて、ミクロでは上に行く流量と下に行く流量が均衡している、というような回答が帰ってきたら感動できるのに。
2年前のバージョンから楽しんで読ませていただいております。学生実習は受ける立場でしか体験した事がありませんが、限られたコストで学生に楽しんで学ばせようという教官の熱意が常に空回りするものですね。私は結構楽しんでおりました。
その場にいれば、管の径を2倍にしたら水面上昇速度はどうなると思う?、とか、1.5 M、2 Mのショ糖溶液の場合は?、とか、1 M 硫酸アンモニウムだったらどうなる?、とか、学生さんに尋ねてみたいです。実習の範囲を逸脱してますね。
液面上昇のグラフを外挿して、時間0の時点で働いている浸透圧を計算する子がいたら満点あげたいです。上層の濃度が経時的に変わるので計算が難しいですね。
滑らかに動く漏れないピストンがあれば、上に釣り合うまで重しを載せて面積で割って「圧」を実測できるんですけど難しそう。手動の血圧計が使えたら面白いかも、と思いました。
科学誌印刷業者 さん、在米ポスドク さん
コメントありがとうございます。
ま、うちの大学の学生さんに出入りの平衡ということをどうやって教えるかですね。しかし、これは物理化学で生理学じゃなんだよね。
ふむ。ガラス管の上にチューブを取り付け、水銀血圧計につなぎ、圧を加えて、液面がもとの位置にもどるときの圧を測定するなんてできるかな?