生体が発生する電気現象を研究するのに、その電気現象(ほとんどの場合、電圧変化)をそのまま音に変換してモニターするのが普通に行われる。電気現象の周波数成分が可聴域(20~20000 Hz)にある場合が多いからである。脳波は周波数が20 Hz以下、心電図もほとんどの電圧変化は可聴域以下、R波だけは音にすると聞こえるというわけでこのような現象にはそのままでは適用できないが、筋活動すなわち筋電図、神経(軸索の束)、単一ニューロンの活動電位等はそのまま音に変換すると聞こえる。この音を記録解析することはないが、実験中にどのような活動が得られているのかを音で認識していると実験がはかどる。少し前までは記録できる電気現象はオシロスコープで観察するのが普通の手段だったのだが、最近はADコンバータ経由でPCのデイスプレイに表示されるのが当たり前になってきた。学生実習ですらADコンバータ-PC-モニタを使うのが普通になってきた。しかしこの方法には落とし穴があって、電気現象に交流電源から出てくる電波50 Hz(あるいは60 Hz)が混入するのはよくあることで、ADコンバータ-PC-モニタでみていると、描画速度が遅い、あるいは非常に早いのでこの電源に由来するノイズが混入しているのかどうかは見た目よくわからない。オシロスコープだと手でロータリースイッチを回転させて掃引スピードを変えるとわかるが、ADコンバータ-PC-モニタではキーボードを叩くとかマウスでクリックすしないとすぐにはわからない。音で聞くと電源ノイズの混入はすぐわかり、対応することができる。さもないと、PCで記録保存したデータというのはノイズだったりするからね。
というわけで、昔から電気現象を研究対象とする場合、これ音に変換して常に垂れ流す=常に聞いているというのが当たり前なわけだ。音に変換とは簡単で、ラジカセの外部入力に突っ込めばいい。しかし、最近はラジカセなどは中古でしか売っていない。オーデイオ機器(ステレオ)でいいのだが、大げさ過ぎるか、あるいは極端に小さくイヤホンを鳴らすだけになってしまう。オーデイオアンプ自体は購入して簡単に作ることができるが、実験用に改造したりするのは素人にはちと面倒である。
というわけで、Audio Monitor の作成を依頼された。しかも3台で、もちろん実験に供するわけで実験用にだ。音はいくつもソースがあると混乱するから最大でも2つのソースの音しか聞けない。2つの筋の活動を同時に聞くとき、拮抗筋ならいいが、協働筋だと区別がつかない。しかし筋活動と神経活動だと同じ時期に活動するとしても同時に聞いてもなんとか区別がつく。単一神経活動と神経活動でも同時に聞いて簡単に区別ができる。同時に聞くのは2つのソースがいいところで3つ以上聞くことはほどんどない。要するに音響機器のステレオで左右2つのスピーカがあればいい。
・例えば筋電図と単一神経活動を記録するための増幅器(アンプ)はそれぞれ異なるから、そして実験ごとに何を記録するかは異なるから、それぞれのアンプからの出力を簡単に選択できるようにする(実験のたびにいちいちコネクタを差し替えたくない)。
・2つのスピーカーから出す音のレベルは独立して調節したい(普通のステレオアンプは独立していない、あるいはバランスというツマミがあって調整する)。
・音量は実験室全体をオーデイオ・ルームにするわけではないので10 Wもあれば十分
というスペックで依頼されて作成することになったのだ。
工業的な電圧測定機器の入力インピーダンスは1 MΩが普通でオーディオ機器は100 KΩが普通だ。現在ではアンプの出力インピーダンスは十分小さくできているので、なんらかのアンプからの入力を受ける場合なら、ほどんど考慮する必要はない。しかし、後述のように、ディスクリートでオーデイオ・アンプをつくるという面倒なことはせず、市販のアンプキットとか出来上がったアンプモジュールの場合、入力インピーダンスがどのくらいのかわからない場合がある。特に中国製の安価なアンプモジュールだとどのくらいなのかわからない。取説もないからね。そこで入力段にバッファーアンプを置くことにした。このアンプの入力インピーダンスは設計できるからね。
オーデイオアンプのキモは電源である。大きな出力を得たい場合は電圧を高くする必要がある。その場合はプラスマイナスのdual supply の方が有利になる。またスイッチング・レギュレーターは、スイッチングのときに大きなノイズがでるのでふさわしくない。電源設計が面倒だ。でも安価なスイッチング電源を使いたい。簡単だからね。
というわけで、15 V 3 A 位のスイッチング電源をテストして使ってみることにする。その根拠はアンプをsingle supply で動作させるとすると、交流の最大出力電圧は± 7.5 V 程度で、実効電圧は√2 で除して 5.3 V になる。スピーカーの抵抗が 4 Ω だとすると5.3/4 A の電流が、つまり≒ 1.3 A だ。これが2チャネル分だから3Aを供給したい。電源にスイッチング電源特有のパルス状のノイズが無視できるのならこれで十分だ。
そんでメインのAudio Amp は既存のキットとかを探せばいい。電子キットといえば秋月電子だ。当方の頭が昔のままだからね。10 W X 2 以上というスペックで探すとAN7173K使用 ステレオオーディオパワーアンプキットというのが見つかる。single power supply で動くというので、放熱器(放熱器(ヒートシンク)54×50×15mm)と入出力のコネクタ(ターミナルブロック 2P 緑 縦)をテストに購入した。バラックで作成して実験用DC電源装置を使ってスピーカーにつなげて問題はなかったのだが、箱に収めて、いじっていたら、当然大きなノイズが入ったりしたら、なにやら発振したらしく、でかい方のコンデンサから煙がでて、おなくなりになりました。ゲインが高すぎてこのままでは安易に使えない。
次にキットは面倒だからアマゾンでアンプモジュールを探してRen He 5個セット TDA2030A TDA2003 オーディオアンプ パワーアンプ ボード モジュール 6-12V 単一電源 アンプボードというのを購入した。なんと、5ケで899円、1ケ180円だ。いくら中国製とはいえメチャクチャに安い。アマゾンのページでは電源電圧が 6-12V とあるがICそのものはsingle supply で最大定格は44 V だから問題ない。音は出る。秋月電子でICのみは60円だ。作るのが楽しいのでなければこの安いモジュールで十分だ。中国製だから信頼に難があるけど、事実1台は赤いLEDが点灯しないけれど、音は出る。サイン波を入力させて出力の波形をみたら出力電圧が±7V位までひずみはでてこないし、20Hz〜100K Hzまでオシロスコープで見る限り、波形に異常はないからこいつを使うことにした。放熱器(heat shink)は小さいので大きいのに交換した。
ブロックダイアグラム
電源部
放熱器用にファンを準備した。しかし最大の音量で10分以上動作させてみたが、放熱器が十分大きいのでファンがなくてもかまわないことが判明し、実際にはファンはあるものの、コネクタをはずしてある。電源に220μFの電解コンデンサと0.1μFのフィルムコンデンサを入れたので、スイッチンフ電源からのスイッチングノイズが音にでてくることはなくなった。これらコンデンサがなくてもほとんど出てこない。
電源スイッチは電源アダプタの出力(+15 V)をON-OFF とすることにした。つまり電源コンセントに接続するとACアダプタに電流が少しですが流れることでしょう。ノートPCの電源アダプタをコンセントに接続したままというのは普通にあって問題ない。その電流量は多分十分少ないので問題はないだろうとした。AC100 V 側に両切りスイッチを設けてもいいがそうすると立ち上がりが遅くなる。Audio Monitor なら関係ないけどね。
Gain 1 のACバッファアンプ。
6つの入力のGroud (Earth)は、入力のところで共通にしないで独立させるために、入力セレクタのスイッチは2回路6接点を使っている。経験上、アースラインが変につながると電源ノイズが増えることがあるのを知っているからだ。結局どの機器でも電源の 0 V はその機器で電源アース(ほとんどの場合ケースが電源のアースに接続されている)に接続されているので、1点アースというのは実施できないのでベタアースにするしかないのだが、ベタアースにするのは後でもできるので、とりあえずこのAudio Monitor のレベルでは不必要に接続した機器のアースが接続されないようにした。Input Selector で選ぶと、2つの機器からの入力のアースが接続されることになるのは避けることはできない。このアンプの 0 V はケースに、つまり電源アースに接続されていない。しかし入力機器のところで接続されていることになる。このAudio Monitor の 0 V がケースつまり電源アースと接続できるように準備しておけばいいのだが、手を抜いた。実際に使ったときどうなるか様子を見ることにする。
アンプは計算上入力インピーダンスが1 MΩ のAC アンプとる。電源が入ると、IC の入力端子が電源電圧 +15 V の半分の +7.5 V になるのにちと時間がかかり、過渡期に変な音がするかもしれない。Gain は 1 だが、これを1/10 にできるようにスイッチを設けた、しかしこれは意味がない。上記のAN7173Kの増幅度が大きいので設けたのだが、使わなくなったので意味がない。Gain 1 のママ使いう。下記のMain Amp のゲインは20 dBくらいでしょ。
Main Amp
このアンプモジュールは多層基板になっているので、回路図は読めない。この図の回路図はICのスペックにあったpdfの図のコピーでこの通りではないでしょうけどほぼ同じでしょ。入力に 10 kΩ の半固定抵抗があり、これで音量が調整されることになっているようだ。取説もないから詳細は不明だ。スピーカーへの出力コネクタは問題ないが、入力と電源が一つの4ピンコネクタになっている。ここに 1 A 以上の電流が流れるので、このコネクタではちと不十分だと思う。+15 V と 0 V のピンに線をハンダ付けした。入力は2Pのコネクタで行った。このモジュールにはどこかに取り付けるためのネジ穴がない。そこでICの放熱用金属部分(これは 0 V に接続されている )をこの放熱器にネジ止めし放熱器をプラスチック板に固定し、そのプラスチック板をケースに固定するということで、ケースと回路の 0 V はケースに繋がらないとした。
入力が 10 kΩ の半固定抵抗で受けていると思われ、プレアンプからは音量調節用のポテンシオメータ10 kΩ(Level)が間に入るわけで、電気回路としてはおかしなことになっている。10 kΩ のポテンショメータの出力を10 kΩ の入力インピーダンスのアンプで受けるというのは回路的に美しくない。しかし現実にはLevel 調節のパネルに付けた 10 kΩ のポテンシオメータで音量調節はできるので無視した。半固定の抵抗を取り除いてもいいのだが、この半固定の抵抗は最大値の位置に固定しておけば、入力インピーダンス10 kΩ のアンプということになり、プレアンプの出力インピーダンスは十分小さいので問題ないはずだ。
ラックにマウントした写真
下のパネル(Distributor)は、記録するためのアンプ等の出力を複数の解析装置に出力することがあるので、T型のBNCケーブル・コネクタで2つに分けるのではなく、このパネルのように複数のBNCコネクタのあるパネルが必要だということなので作成しました。5つあるコネクタの1つはAudio Monitor へ、一つは記録アンプからの入力、あとの3つが解析装置へ接続するということになる。このセットを5つ用意した。
Input Selector がこの5つのどれかと、裏にあるRCAコネクタからの入力を AUX として選択できるようにした。ここにオーディオ機器の標準的なコネクタも準備しておいたよということです。多くのオーデイオ機器の信号はRCAコネクタだからね。
パネルのレタリングはアルミ板に文字入れにある方法を使った。カラーも使えるので注文主の大学のロゴを付けた。
INPUTs の下に文字の並べ方が乱れているのがある。ここは幅 12 mm X 120 mm の薄い鉄板をパネルに両面テープで貼り付けてあって、テプラとかのラベルプリンタのラベルを、磁石になっているゴムシート(12 mm X 24 mm)に貼り付けて、この鉄板の上に磁石だからくっつけると、入力ソースが何であるかを示すことができるようにした。略号で3,4文字のラベルを作り貼ればいいのですが、実験が異なれば記録する対象と音で聞く対象が異なるので混乱しないようにするためだ。普通はマジックでパネルにマークしたりするのですが、これを止めてもう少しスマートにしようというわけだ。水道修理とかいうゴム磁石シートの広告がポストにはっているでしょ。こいつを切って使えばいい。
裏面
AC電源、ヒューズ、スピーカーへの出力端子、AUX 入力端子。
内部の写真です
上が前面にる。綺麗だとは言えないが、保守のことも一応考えて、コネクタで配線するようにしてある。入力を2芯のシールドケーブルを使いたいので使ったのだが、本数が多いので細い線しか使えず、物理的に弱いので断線することが考えられる。しかしケース内部なので動かすことがないので大丈夫でしょ。高さ1ユニット=50 mm に収めたかったわけで、それ用のケースを購入したわけです。このケースの場合内部に収めるには高さが 41 mm 以内である必要があります。スイッチン電源のACアダプタが使えないと高さの低いトランスを複数(例えば 6.3 V 2A を4ケとか、あるかな?)使うことになり面倒なことになるところでした。もしそうなら電源部は別途外にする必要があるでしょう。
スピーカー抜きで3台全てで8万円の予算で収めた。既存の部品、抵抗とかコンデンサとかがあったからね。