酸化ヘモグロビン

理学療法・作業療法の第47回国家試験から午前 65問
呼吸生理について誤っているのはどれか。
1.強い不安があると呼吸は促進される。
2.O2 の運搬は酸化ヘモグロビンが行う。
3.嚥下反射が起こると呼吸が一時停止する。
4.血中 CO2 分圧が増加すると呼吸が抑制される。
5.呼吸中枢は吸息中枢と呼息中枢とに分かれている。
厚労省の正解は2と4、つまり選択肢2と4は誤った文であるとしている。
選択肢1:運動したわけではないのに、強いストレス下にあると心拍数は増え、呼吸運動が盛んになるのは経験したことがあるだろ。好きな異性(人によっては同性でもあるかもしれない)の前では、心臓がバクバク、呼吸が荒くなるだろ?これだって一種のストレスだからな。この問題の解説ではないが、同様の問題が民間業者の模試で出ていて、その解説に「交感神経活動の増加をもたらし、これが呼吸中枢に作用して呼吸運動が盛んになる」とあった。大きなひどい最低の間違いである。交感神経は末梢神経で、中枢神経系に直接作用することはない。呼吸中枢のある延髄内に交感神経が伸びて行く絵なんかみたことないだろ。ストレスが視床下部を介して呼吸中枢と交感神経に作用して呼吸運動を促進し、交感神経活動を増やすのだ。交感神経→呼吸中枢という直列関係にはない。ストレス→呼吸中枢、ストレス→交感神経系という並列関係なのだ。
選択肢2:この選択肢は問題だ。酸化ヘモグロビンとはメトヘモグロビン(methemoglobin)のことである。酸化ヘモグロビンは通常赤血球内にあっても総ヘモグロビンの1〜2%でほとんど無視できる量である。酸化ヘモグロビンは酸素と結合する能力はない。だから誤った文であるということになる。しかし体内にほとんどない物質を選択肢に挙げるというのはおかしい。病気でメトヘモグロビンが多い場合があるが、この場合は正常なヒトを前提としているのが明らかだ。「O2 の運搬は酸化プルトニウムが行う」といっているのに等しい。引っかけ問題だとしたら尚悪い。悪意のある問題と言える。
ヘモグロビンが酸素を運搬する。これはだれもが正しいと認める文章だ。酸素と結合したヘモグロビンは酸素化ヘモグロビン(オキシヘモグロビン oxyhemoglobulin)という。なぜ酸素化という言葉を使うかというと、酸素との結合が共有結合でないからである。水素が酸素と結合して水ができる。このとき大きなエネルギーが出る、だから水素ガスは空気中の酸素と結合して爆発するという危険物質なのだ。炭素が酸素と結合して二酸化炭素になるときも同じだ。熱と光という形でエネルギーが放出される。これか酸化だ。逆に水や二酸化炭素から酸素を取り出す(還元)ためにはエネルギーが必要となる。水を分解し水素ガスと酸素ガスをつくりだすためには電気分解を使う。つまり電力というエネルギーが必要となる。つまり酸化とは酸素とほかの分子とで共有結合を作ることで、この結合はしっかりしていて、なかなか切断できない。
これに対して酸素と結合したヘモグロビンは、pH(水素イオン濃度)が下がる(酸性に傾く)、周囲に二酸化炭素が多い、温度が高くなるなどのわずかな変化で容易に酸素を放出する。酸素はヘモグロビン分子にちょいと腰掛けているような状況なので酸素分子はすぐ飛び出しちゃう。共有結合ではないのだ。だから酸化ではなく酸素化ヘモグロビンというのだ。酸素と結合していないヘモグロビンは、脱酸素化ヘモグロビン(デオキシヘモグロビンdeoxyhemoglobin)という。酸素との結合を問題とする記述の時使われる。ヘモグロビンに等しい。
しかし、教科書やネットの情報ではこれが混乱している。酸素化ヘモグロビンを酸化ヘモグロビンとしている教科書がある。だから選択肢として不適切だと思えるのだ。トートラ人体解剖学生理学原著7版は酸化ヘモグロビンとしている。トートラ人体の構造と機能第4版は両方が併記されている。大抵の教科書は酸素化ヘモグロビンあるいは混乱を防ぐためオキシヘモグロビンとカタカナ表記だ。
管理者は、この問題を作った人を疑っているのだ。国試には結構おかしな問題がある。毎年、不適当な問題が必ずと言っていい程ある。
作問者の頭には「O2 の運搬は酸素化ヘモグロビンが行う。」という問題だったのではないかと管理者は疑うわけだ。もしこのような選択肢だったとしても、問題だ。
ガス販売会社がお得意様に酸素ガスをボンベに詰めて、配達するとしてみよう。バイクを使うとボンベは1本しか配達できない。このような状況では、「酸素の運搬はバイクが行う」という文は正しいだろう。しかし「酸素の運搬は酸素化バイクが行う」だと、ちとわからない。正しい文かもしれない。事実、酸素化バイクが酸素ボンベを配達しているからな。酸素化バイクはさらにもう1本の酸素ボンベを運ぶことができないので、もう運べないので誤った文かもしれない。
問題は、ヘモグロビン分子は4分子の酸素を運ぶことができることにある。ヘモグロビンには酸素が結合していない。酸素化ヘモグロビンの定義に酸素分子の数は含まれていない。1分子のヘモグロビンは1〜4分子の酸素を運べるのだ。
ガス販売会社が配達に軽トラックを使っているとし、この軽トラックには4本まで酸素ボンベを積むことができるとする。このとき「O2 の運搬は酸素化軽トラックが行う」という文があったときこの文は正しいかどうかわからない。1本の酸素ボンベを積んだ軽トラックも4本の酸素ボンベを積んだトラックも酸素化軽トラックなのだ。つまり「酸素の運搬は軽トラックが行う」は正しいが、「酸素の運搬は酸素化軽トラックが行う」は、酸素ボンベ1〜3本積んだ軽トラックはさらに酸素ボンベを積み込む事ができるから正しいだろう。4本のボンベを積んだ軽トラックはさらに酸素を運ぶことはできないから誤りかもしれない。どちらにしろ酸素化トラックは1〜4本の酸素ボンベを配達するのだから正しいとも言える。
つまり、酸素を4分子持った酸素化ヘモグロビンは酸素をさらに運ぶ事はできないが、1〜3分子を持った酸素化ヘモグロビンはさらに酸素を運ぶ事ができるのだ。
だから選択肢がもし「O2 の運搬は酸素化ヘモグロビンが行う。」となっていたら正しい文が誤った文なのかわからない。
選択肢3:あたりまえだろ。嚥下しているときに呼吸運動も生じたら、食物が気管に入っちゃう。誤嚥ということだ。嚥下反射は同時に呼吸中枢に作用して呼吸運動を一時停止させる。その神経回路はいまだ明らかにされていないが、常識で考えたら正しい文であることはわかるはずだ。高齢者ではこの呼吸中枢と嚥下反射の連携がうまくいかないので誤嚥が生じうるのだろう。あるいは中枢での連携は問題ないが、咽頭や喉頭の筋群の収縮・弛緩がうまくいかなくなっているのだろう。後者の方だろうな。
選択肢4:呼吸運動が何のために行われるかがわかっていれば、簡単な問題だ。受験生をバカにした問題だと言える。「呼吸運動に最も影響を与える血液ガス成分は二酸化炭素である。酸素ではない。」というのは、管理者の1年次の講義で何回も言った。管理者の講義を聞いていたら容易に解ける問題だ。
選択肢5:こいつも問題だ。古い教科書には「呼吸中枢は吸息中枢と呼息中枢」の2つから成ると書いてあるだろう。しかし、最近の教科書には書いてないはず。呼吸運動は吸息運動と呼息運動がシーソーのように交代している。だからそれぞれを仕切る中枢があると理解し易い。理解し易いということと実態とは必ずしも一致しない。延髄の単一ニューロンレベルでみると、確かに吸息時にのみ活動するニューロン、呼息時にのみ活動するニューロンがそれぞれ延髄内で少し場所を変えてそれぞれグループを成している。だらからといって、それぞれが吸息中枢と呼息中枢であるということはできない。吸息が開始するメカニズムと呼息が開始するメカニズムは異なり、それぞれが独立しているわけではない。吸息から呼息へスイッチするニューロンもあるらしい。この辺りのメカニズムは近年、解析が進んでいる。その結果として吸息中枢、呼息中枢という2つの中枢の相互作用で呼吸運動が決まるという概念はなくなりつつあり、吸息ニューロンと呼息ニューロンが互いに相互抑制で結合していることが呼吸運動がシーソーのように行ったり来たりするメカニズムの一端であるという考えかたになりつつある。まだ教科書にわかり易く掲載するところまで研究が進んでいないので、最近の教科書では延髄に呼吸中枢があるとだけ記載されているのだ。つまり延髄さえ問題なければ呼吸運動を持続することができるからだ。だから、選択肢の「分かれている」というのは正しいと言えば正しいがまだ解決されていないので選択肢としてふさわしくないのだ。作問者は高齢者なので古い概念がまだ頭の中に残っているのだ。勉強していないからな。