酵素を失活させる

酵素活性を消失させる一番簡単な方法は加熱だ。しかし、これを50人のクラスでやるのは結構面倒だ。1学年100名なのだが2部授業なので1クラス50名なのだ。大学で2部授業というのはあまり聞いた事がないけど、本学では実習室が狭い、スタッフが少ない、大学院がないのでTA(Teaching Assistant)がいない(実は、前任者が1名雇ってくれていて引き続きやってもらっている)というわけで同じ実習を2回するのだ。さらにもう一つの学科も基本的に同じ実習なので毎週計4クラスやるのだ。
対象の酵素は唾液アミラーゼだ。ヨウ素ーデンプン反応は中学や高校、ひょっとして小学校でもやっているだろう。一応、大学なんだからもうちょっと系統的に、酵素活性を失活させてデンプンと反応させるというのが実習なのだ。
そんで、唾液を採取して、電子レンジで加熱というのをやったら、水がほとんど吹っ飛んじゃってだめだった(最初の年)。このときはピペットマンもなく、あるのはディスポの注射器だけ。だから注射器に1 ml 採って電子レンジでチンしたら唾液がなくなってしまった。悲惨な実習だった。 前任者の作成した実習書を見るとどうやって加熱したのか書いてない。「ビーカーに入れて加熱する」としか書いてない。
2年目はピペットマンを仕入れ(金の工面もちとたいへんだったが)、もうちょっとソフィスティケイトした計画を立てた。失活させるための加熱はホットバスで行った。そこそこ失活したように見えるのだが、十分でない。何故かわからずに終わってしまった。
医系の学生がピペットマンを知らないというのもかわいそうだからな。一部の先進的な教諭がいる高校ではやっているのを知っているが、ほとんどの高校でピペットマンをつかった実験などないだろう。
3年目の今年は、予備実習をしたのだ。そこで気が付いたのが、ホットバスは開口部が大きく、すぐ水が蒸発する割には温度が上がらない。蓋をする必要があると気が付いたのだ。温度が上がらないので、温度が冷えると酵素はもとに戻ってしまうのではないかと思ったわけだ。確認はしていない。唾液アミラーゼの不可逆的失活温度なんてネットにはなかった。80度5分というレポートがあったが、不可逆的なのかよくわからない。蓋としてアルミ箔を考えた。しかし、一晩、なんかいい別の方法は?と思案して、鍋の蓋を思いついた。ホットバスの径は25cm。さて25cmの鍋蓋にすべきか26cmのものにすべきか?25cmを購入してぴったりだったらいいのだが、合いそうで合わないと不安定になる。26cmを選択した。大は小を兼ねる。ネットで見ても鍋蓋のサイズの詳細はどこにも掲載されていない。
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予想通り、蓋の金属の縁が外にでてガラスとホットバスの縁が接する。これが25cmの物だと、ホットバスの縁と鍋蓋の縁の金属が微妙に重なって水平に置けない可能性があるから、26cmが安定していいのだ。
と、ここまでは予想通りで満足だったのだが、水蒸気が鍋蓋の内側で水になり、この水が蓋の縁から垂れてくる。縁が外に張り出しているから水が外に垂れちゃうのだ。くそ、失敗。だからといって25cmの蓋を手に入れる必要はないだろ。机が濡れるだけで済むからな。
[ 追記 ] とは書いたものの、やはり管理者の美意識に合わないので近くのホームセンターで24cmのサイズのを買って合わせてみた。ベストコというメーカの物だ。25cmの蓋は売ってなかった。2cm刻みしかない。24cmだとちょうど縁のステンレス部分が、ホットバスの縁に引っかかり、中に落ちることもない。蓋の縁のステンレスの枠には下に垂れ下がった部分があるが、これがホットバスの中に収まるので、今度は水が外に垂れないはず。26cmの鍋/フライパン蓋が4ヶ余ってしまった。ほかに使い道なんかない。「寸法数字が同じでも鍋フライパンの形状によっては合わない」との注意書きがある。そんなのはわかっている。だから製品には詳細なサイズを書いておけよな。手に入れてみないとわからないじゃん。サイズが2cm刻みという事は、料理ではそのくらいの精度でいいのだろう。
中に見えるのは、マイクロチューブのスタンドで、これも高さが足りない。マイクロチューブをスタンドに立て、マイクロチューブがひたひたに浸る水面の高さだと、ホットバスの温度センサーが空中に出てちゃうので、まずい。センサーが水没するところまで水を張るとスタンドの高さが低くてマイクロチューブがぷかぷか浮いてしまう。
しょうがないから、ステンレスビス/ナットを手に入れ、スタンドに足を作った。それでも水の量によっては浮いてくるから落とし蓋もステンレスの網で作成し、この落とし蓋のつまみはコルク栓で作った。これが写真に見えている。
今時の学生は「落とし蓋」て知っているだろうか?聞いてみよう。料理教室で「落とし蓋を落としなさい」と先生が教えたら、学生は鍋蓋を床に落としたという、ウソかホントか知らない話があるからな。日曜日昼の「噂の東京マガジン」というTV番組の「やってTry」というコーナーに出てくる同じ年頃の女子を見ると、この料理教室の話はホントに思えるからな。
[ 追記 ] 学生に落とし蓋て知っている?と聞いたら、「知ってる、魚の煮付けなんかのときやる」ということだった。「噂の東京マガジン」の「やってTry 」に出てくる女子よりましなようだ。ちと安心というか、もっとひどいのがTVにでてくるのだなぁと感心した。
酵素を失活させる方法のもう一つはpHを変えることだ。塩酸と水酸化ナトリウムを使ってみた。水酸化ナトリウムはだめだ。実験してみてから気が付いたのだが、デンプンのヘリカルな構造が壊れてヨウ素が中に入らず発色しない。知らなかった。やってみるもんですな。