既に習っただろう/新しい知見だろう

講義では、終了時にその講義でのポイントとなる点を問う4肢選択問題を出している。

答えは持参している教科書に記述がある、配布したプリントに書いてある事が多い。これらを見て答えていいのだ。講義で説明するのだから、満点になるのが当たり前、ま、一つくらい勘違いがあるかなという得点を期待しているのだ。しかし満点は、100人クラスで10人に満たない事が多い。

今日の講義は呼吸でヘモグロビンの話だ。

何故、酸素が結合するヘモグロビンというタンパクが血液中(赤血球中)に多いのか?
ということを説明するため、学生が持参している薄っぺらい生理学入門書や配布したプリントに書いていないことを、まずスライドで説明した。

地球の歴史の中で約22億年前に、突如として二酸化炭素でおおわれていた大気は酸素に変わってしまったのだ。その原因は光合成を行う生物が出現したからなのだ。
次にこの酸素を使って生存に必要なエネルギーを得る生物が出現して現在に至っているのだ。酸素を使うほうが効率がいいからな。
しかし、酸素を含めた気体(ガス)は温度が高い程水に溶けない。どんな生物も細胞の周囲は水で、この水との間で酸素や二酸化炭素のやり取りを行う。一方、体温が高い程生命活動は有利だ。酸素が必要なのに体温が高いと水に溶けている酸素が少ない。この矛盾を解決するタンパク質を動物は開発したのだ。これをヘモグロビンという。

というイントロダクションから講義は始まった。温度に対する酸素の水への溶解量のグラフを示したわけだ。イントロダクションなのでこのグラフは配布資料にも、生理学の教科書にも書いてない。中学高校の理科で聞いたことがあるに違いないから思い出してもらうためだ。
ヘモグロビンの存在意義を教えたつもりだ。
ちょっとは興味が持てるように地球の歴史から進化の話を加えて話したのに。

イカ、タコは似ているが異なったタンパク、ヘモシャニンでこいつは酸素と結合すると青くなるのだ!!イカの鰓が青い写真も見せた。こつらの血は青い!!とも教えた。

そんでもって、講義の終了時に試験した。酸素が水に溶ける量は、温度が低いほうが大?という問に正解は43%。温度が高い程、酸素は水に溶けると答えた者は42%。なんてこった。半分以上が聞いたかもしれないが頭の中に定着していないのだ。朝9時からの講義の冒頭の話なので寝ているやつなんかいない。普通、砂糖のような個体は温度を上げると良く解け、温度が下がると結晶となって析出するというのを小中高校でやっているはずだ。これに引きずられているのだ。気体は違うのだ。

学生にとって面白い話ではないのだろうか?印象に残る話ではないのだろうか?砂糖とは違うと強調する必要があったのか。

大気の酸素分圧は160 mmHg。だが動脈血中の酸素分圧は100 mmHg 程度。しかし、肺胞では水蒸気圧があるのでどんなに換気を良くしても肺胞内は湿度100%つまり水蒸気圧47 mmHg でこれは変わらない。したがって肺胞内の酸素分圧は100 mmHgから換気がよくなってもさらに大して大きくならない。
だから過呼吸しても動脈血の酸素分圧は上昇せず二酸化炭素分圧が減るだけだ。酸素は貯蓄できないのだ。激しい運動の前に深呼吸を繰り返しても酸素を貯めることはできないのだ。すでに、ほとんどのヘモグロビンは酸素と結合しているからだ、と説明した。もちろん肺胞でのガス交換の絵を配布しスライドで説明しつつだ。

大気の酸素分圧は160 mmHg。だが動脈血中の酸素分圧は100 mmHg 程度。だから過呼吸で動脈血酸素分圧をさらに上げることができるか?という問に対して、これも正解率は43%。
この問は学生にとって新規な知識だ。何故かも説明したわけだ。酸素を貯めることはできないというのは、これまでの知識からの結論とは異なるはず。それでも理解してくれていない。この辺の説明は講義の中頃だから、学生の頭はもう満タンでフォローできてない。にもかかわらず半分近くが正解だったというのはすばらしいことなのかもしれない。

多分、どこの医学部でもコメディカルの学科でもこのような解説をしている授業はないはず。動脈血と静脈血の酸素分圧はいくつ、二酸化炭素分圧はいくつ と伝えているだけのはず。
ヘモグロビンの酸素解離曲線の意味とこの曲線が状況によって右にシフトするとかを説明しているだけなはず。

ううう。どうしたもんだろ?結構、興味を引くようなストーリーを作っているんだけどな。こういうメカニズムになっている だけじゃなく、このようなメカニズムがどうして有効なのか、こういうメカニズムがあるからこいういうまずいことも起こると説明しているのだが…