高等学校の理科は生物基礎と生物あるいは化学基礎と化学のように2本立てで、基礎とつくのが必須、つかないのがさらに進んだ内容で選択というのが普通だ。だから化学基礎はすべての新入生は履修してきたわけだ。
文科省の高等学校学習指導要領解説の56pによると化学基礎については;
(ア) 物質量について
中学校では,第1分野「(2)イ(ア) 物質の溶解」で,質量パーセント濃度について学習している。
略
物質量とその単位である「モル」を導入し,原子量,分子量,式量との関係やモル質量との関係
を扱う。また,気体については体積と物質量との関係,溶液については溶液の体積と溶質の物質量
との関係を表すモル濃度も扱う。
とあるわけで、モル濃度の概念はわかっているはず。
しかし、AO入試で早稲田大学に入った優秀な筆頭著者ですら、大学院を卒業しても、モル濃度の溶液が調整できない・現実に作成できない(110.57mg の ATPを 1ml の水に溶かして200mMとするなんて書いている)ことからもわかるように、早稲田には及ばない中小私立大学の学生さんには、”はず”があてはまらないのだ。
浸透圧実習を行ったのだが、大名実習で蔗糖の0.5 モル、1モル溶液を教員側が準備したので、学生さんにはモル濃度の調整の設問をレポートの課題として与えたのだ。毎年のことなんだけどね。
0.2 Mの蔗糖液を100 ml を作る方法を説明しなさい。蔗糖の分子量は342.3 である。
という設問である。モル濃度の溶液の調整方法は年度当初に、「単位の話」という小冊子で、なぜ医学では圧力をパスカルで表示しないのか等を含めた読み物を提供してある。学生同士が相談してもいい。ネットや教科書で調べてもいいという状況である。
ほとんどの学生さん(95名)が 342.3[g] X 0.2[モル] X 0.1[100/1000 ml] = 6.846 g の計算はできている。全員が計算できたかどうかはわからない。多分、友人の結果のコピペが何人もいるだろう。しかし、問題は、この6.846 g の蔗糖をどうやって溶かすかである。
正解は100 ml弱の水にまず溶かしてから水を加え、100 ml にするであるが、予想通り水100 ml に溶かすが最も多い答えになった。毎年のことだ。
93.154 ml あるいは93.154 g の水に溶かすというのは中学で習った重量%濃度が尾を引いているんだろうな。
こういう記述問題を出すと、必ず意味不明な文や、記載が不十分な回答が出て来る。単に「6.846 gを溶かせばいい」とかである。
昨年度は正解者が17%だったので、今年のほうがはるかに良い。良いといってもこの程度だけどね。
最終的に100 ml に調整するわけだが、ビーカーを使ってというのが多く、メスフラスコでという答えは一人だけだった。高校では実際にモル濃度の液体を作らせていないんだろうな。
なぜこのような面倒な操作をするかの解説を行った上で、再度期末試験に出すわけだ。計算ができない学生がいるから、正解者は半分いるかいないか程度になるだろう。
ま、こんなもんでしょうね。教えがいがないというのか、1/4だったのが半分ができるようになったのはすばらしいというのか、よくわからん。
もしかしてですが…
「93.154 g の水に溶かすという」という回答は…
ショ糖の密度を1.0 g/mL と見立てて、固体を液体に溶かした場合、その溶液は混ぜる前の合計体積と考えた回答のような気がします。
実際は、エタノール1 L と水1 Lを 混ぜると2 L 丁度にならず減少するわけですが、こういった基本的なことが考えられてない?
ちなみにショ糖の密度は約1.6 g/cm3です
この「93.154 g の水に溶かす」の発想は、多分書いた本人にもわからないと思います。単純に100 ml を作るので、1 mlが 1 gとして(溶液がそうなるわけがないけど)合計の重さが100 gにならないと行けないからという考えではないでしょうか。中学では重量%濃度の計算、例えば水 90 g に、食塩 10 g を溶かしてできる食塩水の濃度は?をしつこくやってきたわけだが、高校でのモル濃度の計算は、分からない内に次のテーマに移っちゃうから理解できないままになってしまったということだと思っています。