重心動揺計という測定器がある。前後、左右の荷重センサがある平らな板の上にのると、重心の前後左右の移動が記録できるという機械だ。100万円程度する。WiII でもできるので、その改造やプログラムがゴロゴロネットにはある。
ヒトは2本足なので、ダイナミックに重心移動を調整していないとこけちゃう。体の傾きを検知し、傾かないように常に体幹や足の筋の収縮状態を調整しないとこけちゃうのだ。3本足だったら、死んでも安定できる。
体位の情報は、1)内耳にある耳石器という頭の傾きを検知する器官からの情報、2)視覚情報、つまり垂直に立っている柱などの情報、3)深部感覚という関節の角度や筋の長さや緊張の情報、4)足底からの皮膚感覚情報 である。これらの入力に従って筋の出力を調節機能が正常なら重心のふらつきは狭い範囲に収まる。どっかに異常があるとふらつきの範囲が広くなるというわけだ。
1)の情報をなくすのは無重量でないとできない。2)は目をつぶればいい。3)は体のあちこちにあるわけで、これをなくすのは難しい。4)はスポンジのような柔らかい物の上に立つことによりかなり情報が制限することができる。
内耳に障害があるとかでは重心がふらつくわけだ。開眼より閉眼のほうがふらつきは大きい、スポンジの上に立たせるとさらにふらつく。
目をつぶってふわふわの座布団の上に立つとふらつくでしょ?年寄りには危険なわけだ。座布団の上に立ってコケるというのは年寄りに結構ある事故だ。
こういうことは既に知られているので、卒業研究にはならない。卒業研究対象にするためには、足底の筋を鍛えたら動揺が少なくなるか?とか、何かを操作したらどうなるかということになるわけだ。
卒業研究の被験者は、学生がお互いになるわけで、健康な二十歳前後の学生に様々なことをやらせても、重心動揺の程度にあまり差がでない。補償したり、学習したりする能力が若いから高いからだ。そこで、重心動揺計に乗っている時、外から突っついたりして動揺をおこさせ、その回復過程を調べたほうが、大きな変化があるだろう。
というわけで、腰を横から押すことを考えたが、一定の移動距離にするためには、どのように押したらいいのかなど面倒だ。そこで、寄りかかってもらい、その寄りかかった壁を急に倒すことにする。よりかかりの力を一定にすればいいわけだ。
予備実験では大体3kgくらいの荷重で壁に寄りかからせておけば、その壁を急に倒すと、倒れたり、ステップしたりしないで重心を移動して立位を保持できることがわかった。
壁を瞬時に倒すのは、電磁石を使えばいい。防犯ドア用の電磁石によるキャッチ装置が手に入る。電源を入れるとくっつくのではなく、離れるというタイプだ。200 ms 位の幅の電圧をあたえると、くっついていた鉄板から剥がれる。というわけで、重心動揺計が測定中5Vの出力を裏の端子から出しているのを利用して、測定開始から自由に設定した時間後に壁が倒れるという装置を作った。
ただし、重心動揺計の出力はCSVファイル−X方向とY方向の荷重の20ms毎の値−で、測定中操作した時点をマークすることができない。そこで正確に、例えば1秒後に操作し、CSVファイルの50行目に操作(刺激)が入ったとするしかない。つまり正確な1秒が必要なのだ。
水晶発信のタイマーキットを探したのだが、いいのがない。サムホイールスイッチで設定できないと困る。2進スイッチの組み合わせで設定してもいいのだが、わかりにくい。そこで、古いStimulator (Pulse generator)があったのでこれを利用することにした。
測定中の信号の立ち上がりを利用し、このPulse generator をスタートさせ、設定された時間後にパルスを作って、磁石を動作させるわけだ。
被験者は重心動揺計の上に立ち、壁に体重計があるから3kgの荷重がかかるように寄りかかる。実験者が測定を開始すると、設定時間(0〜99秒)後に壁が倒れる。被験者はいつ壁が倒れるかわからない。ステップすることなく重心を移動して立位を保つことを行わせるわけだ。
右横の壁に寄りかかり、壁の支えがなくなると、寄りかかった側と反対側に重心は急激に移動し、左右に振動しながら安定状態になる。
この図は右に寄りかかっていたときから、支えがなくなったので重心位置を左に移動して立位を保った重心移動の経過だ。
それまでの時間経過を、開眼と閉眼で比べる等すれば、ただ単に開眼と閉眼で立っているときの重心の動揺の程度を比べるより大きな差が出るだろう。