副交感神経系の活動を高めて血管を拡張する….

朝のラジオでは、中高年向きの健康番組がある。別に、朝のラジオに限らず健康番組はいっぱいある。たまたま聞いたから朝のラジオ番組というだけだ。
この手の番組では、話の信頼性を保つために、医師がコメントする。たいていは、健康維持/増進に関する一般向けの著書がある医師だ。
多くの場合、過剰なストレスがよくないという話だ。ストレスがあると交感神経系活動が優位になり、血管が収縮し血圧が上がってよろしくない、副交感神経系の活動を優位にして血管を拡張しなければいけない、という話だ。
自律神経系は交感神経系と副交感神経系の2区分に分けられる。別に神経の色が違うわけではなく、二つに分けて考えると理解が容易になるということが二つに分ける理由だ。自律神経系によって活動が調節される器官−心臓や胃腸−はこの2種類の神経に支配されている。支配とは解剖学的に神経がその器官に到達しその器官の活動を調節するということだ。一方の神経系の活動が増えその器官の活動が亢進されるとすると、他方の神経系の活動は逆にその器官の活動を抑制する。これがよくある支配様式で、心臓がその典型である。心臓を支配する交感神経系の活動が増えると心拍数が増え、心筋の収縮力が増えより多くの血液を拍出することになる。逆に副交感神経系の迷走神経の心臓枝の活動が増えると心拍数が減る。心臓は袋に溜まった血液を絞り出す器官だから、1分間あたりに絞り出す回数(心拍数)が減ると拍出される血液量が減る。
また一方の神経系の活動が増えるときは他方が減るとされている。しかし、これは血圧調節時の心臓の交感神経と副交感神経ではあてはまるが、他の場合、必ず当てはまるかどうかは明らかではない。器官に対する作用が促進性と抑制性だから両方の活動が同時に増える/減るというのは矛盾するかもしれないがあり得ることだ。特に心臓では交感神経の活動が非常に高まると心拍数が高くなり過ぎ、かえって心拍出量が減ってしまうので、迷走神経もそこそこ活動して心拍数を上げすぎないほうが有利になることもある。
すべての自律神経系によって支配される器官が心臓のようだったら単純なのだが、残念ながらどちか一方の支配しか受けない器官もいくつもあるのだ。その一つが血管なのだ。血管(一番細くなった動脈=細動脈、毛細血管の一つ手前の動脈)は交感神経活動が増えると収縮する。したがって血圧が上昇する。しかし、副交感神経系がそもそも支配していないので副交感神経活動を高めても血管は弛緩しない。交感神経はどんなときでも活動しているので、交感神経の普段の活動をより少なくすることで血管は弛緩する。つまり、血管の収縮の程度は交感神経の血管を収縮させる神経の活動の増減で調節される。副交感神経は関係がない。
おしっこのとき膀胱が収縮する。膀胱を収縮させるのは副交感神経系だ。膀胱を支配する副交感神経(解剖学的には骨盤神経という)の活動が増えて膀胱が収縮しても、血圧は影響を受けない。胃は平滑筋でできた弾力性のある袋だ。ゴムの袋に水を詰めて行くと、中の圧力は次第に増えて行く。胃の内圧は食物をどんどん食べても増えない。中に物があると平滑筋が弛緩して膨れるからだ。この反応は胃を支配している迷走神経=副交感神経の活動が増えて平滑筋を弛緩させるからだ。このときも血圧に変化はない。
副交感神経系は特定の支配臓器の活動を調節する(局所的)のが主であって、全身の副交感神経系が一斉に活動が増減することはあまりない。これに対して、交感神経系は一斉に活動が増加することがある。Emergency のときだ。1930年代にW.B.Cannonが概念を作った。その弟子がC.M.Brooks でその弟子がK.Koizumiでその弟子が管理者だ。
このCannon の提唱した交感神経系の概念が、実験的な裏付けもあり、世の中に受け入れられたことと、交感神経と副交感神経の対比が極めてわかり易かったために、副交感神経系の活動を高めて血圧を下げる…という誤解を、現職の医師がもっているわけだ。一般人に説明するのが簡単だからな。
慢性的なストレス過多で生じる様々な症状は自律神経系だけでは説明できない。ホルモンとか、視床下部のようなより上位の中枢が関係する。末梢神経だけで説明するのは無理がある。
自律神経系の研究は、皮膚感覚とか骨格筋の収縮。運動とかの研究に比べ研究者が少ないこともあって遅れて来た。ON-OFFがはっきりしないこともあるからだ。だからなんだかわからない症状を自律神経失調症とか名前をつけるのだ。名前を付けて解決したような気がするだけなのだ。